一之輔・夢吉二人会@人形町・日本橋社会教育会館
瀧川鯉○:「馬大家」
三笑亭夢吉:「附子(ぶす)」
春風亭一之輔:「お見立て」
-仲入り-
春風亭一之輔:「風呂敷」
三笑亭夢吉:「将棋の殿様」
数年前から。そして今もなお、落語会の旬と言えば春風亭一之輔である。旬と言うと一過性のように聞こえてしまうので正しくないな。現代と今後の落語会をしょって立つ噺家のひとり、太く大きな屋台骨が春風亭一之輔である。それは間違いない。それだけの実力と人気を誇る。素晴らしい事だ。
でもね。
でもですね。昨今の「一之輔とキョンキョン(キョン師。=柳家喬太郎師)を聴いてたら間違いはない」という風潮。(この手の風潮はどの時代にもあったので、それ自体は不可避なものとしてどうでもいい。)
俺が言いたいのは昨今の“間違いはない風潮”ね。「一之輔とキョンキョン(キョン師。=柳家喬太郎師)を聴いてたら間違いはない」という風潮。これに反旗を翻したい。
確かにそうだろう。確かにこの二人を聴いてたら追ってたら間違いは無かろう。でもね、と。俺は嫌なんだ、と。
とーーっても天邪鬼なのでね。俺は。
何も考えずに楽しむのが落語というものだろう。だろうけれども、何も考えないにもほどがある。なんてことも一方で感じるわけでね。
他にも面白い噺家はいっぱいいるし、噺家おもしろランキングは、噺家業界が勝手に決めたランキング(真打とか、真打じゃないとかに関わらず。前座さんにだってつまらないベテラン以上におもしろい人もいます)と必ずしも一致しないし、人の意見で自分のおもしろランキングを設定するな。なんてことも強く思うわけでね。
がそんな俺でも今夜の落語会には強く惹かれたのであります。むしろ、こんな俺だからこそ強く惹かれたのでありましょう。一之輔・夢吉二人会。
落語一大帝国を築いた強大な落語協会と、それを支えるセンス・オブ・ワンダー、若き暴れん坊将軍・一之輔師に、今一つ硬派になりきれない温和な落語芸術協会が温めに温め抜いて、未だに二つ目に置かれている超絶実力派若手の筆頭・夢吉さんが挑むという二人会。これを見逃して何が落語ファンかと言う。
前置きが長くなっってしまった。それだけ強く思っているということで。では開幕。
なんだか憎めない実力派前座の鯉○さん。俺、鯉○さん好き。優しいから。ネタは「馬大家」。午(ウマ)年ウマれで、ウマれつき馬が好きという大家さんの噺。初めて聴いた。都内には、高田馬場、西馬込など多数の「馬」が付いた地名駅名が残っていることに少々びっくり。期待してます。鯉○さん。
夢吉さん。今日の枕もめっちゃくちゃ面白い。はなっから重たくない客席でしたが、もう温まる温まる。ぬっくぬく。鉄板枕の「ばいばい」⇒「この町に」とか、新しく聴いた落語を教えている生徒とのかけあい話とか。もう面白すぎ。面白すぎて本編大丈夫?とこちらがちと不安になるくらい。だが、そんな下衆野郎の下衆な不安は杞憂だったことを俺は、30分後、知ることになる。
ネタは以前、独演会@広小路亭で聴いた「附子」。そンときはネタおろし。ネタおろし段階にしても、夢吉さんが“夢吉プライド”にかけて、高座でかけられるだけの状態・品質に高めてかけてくれた。このネタおろし段階ですら、相当面白かったというのに!のに!
今夜のは、あれはなんですか!
ウルトラ面白いじゃないですか!
仕上げてきている…。
高品質製品を超高品質世界流通レベルにまで高めてきている…。
一年戦争(ジオン公国の独立戦争)を舞台に徐々に才能を開花させ、愛機ガンダムを駆り、多くの強敵たちと渡り合い、ニュータイプとして覚醒。それ以降、その卓越した能力を加速度的に開花させ、シリーズを通して超人的な戦績を挙げたアムロ・レイ。
かたや、
十年戦争(落語芸術協会の派閥出世争い)を舞台に徐々に才能を開花させ、愛ネタ・「附子」を駆り、多くの強敵噺家たちと渡り合い、ニュータイプとしての覚醒。それ以降、その卓越した能力を加速度的に開花させ、落語史を通して超人的な戦績を挙げつつある三笑亭夢吉。
どうです。アムロ・レイ、そのものでしょう。三笑亭夢吉。坊主頭のアムロ・レイ=三笑亭夢吉。俺はこの説を今後頑なに押し通していきます。
ミノフスキー粒子に視界を遮られながら、(この人の努力たるや!)と笑いながら背筋を凍らせていたのはほぼ満員の客席の中で、俺一人だけだったろう。
さてさて。
坊主頭のアムロ・レイが三笑亭夢吉なら、センスの人、春風亭一之輔はもちろん、シャア・アズナブル。
ジオン・ズム・ダイクンの子として生まれ、シャア専用ザクを駆り、通常のザクに比べて3倍近い速度で移動し、地球連邦軍を圧倒するシャア。一之輔は春風亭一朝の子として産まれ、一之輔専用改ザク(古典の一之助流改作)を駆り、通常の噺家に比べて3倍近い速度で出世し、地球落語軍を圧倒している。
今夜はいちいちが長いな。
そんな一之輔師は「お見立て」。子供の枕だったので「初天神か?」とか、待ちぼうけと女の枕だから「五人廻しか?」とも期待したが「お見立て」。
噺が終わった後、隣で観ていた先輩(一之輔を多く見ている方)が「今夜の一之輔は本気度が違うね」とぽつり。
確かに!
人気者故、高座を流す感じもある一之輔師だが、今夜の「お見立て」は気合十分。枕からネタ(「附子」)から、何もかもがドッカンドッカン笑いを取っていた夢吉さんを袖で聴いていて、噺家魂に火が付いたんだろうなと言う気はした。「附子」に登場する悪の権化・定吉が口をすすり鳴らす仕草をアドリブで加えていたしね。花魁が死んだ言い訳に「猛毒を舐めて死んだ」って言わせてくれたら、もっと完璧だったのに…。さすがに一之輔プライドが許さなかったか。
上手い。楽しい。面白い。人間味もたっぷり。
でも、以上、おわり。
そんな贅沢な印象を一之輔師には抱いてしまう。(どうせ、おもしろいんでしょう)的な斜に構えてしまう。(今のレベルはわかったからさ。もっと驚かせてよ)という実力者に対してのある種の要求なんだろうな恐らく。
急激にセンスを開花させ成長し、有名噺家への急こう配な階段をとんとんとーんと駆け上がった人だけが陥るプラトー(※)なのかもしれないなと分析しています。
※プラトー(Plateau)は、一時的な停滞状態のことを言う。おもに筋力トレーニング時の停滞期を指す。語源は「高原:plateau」から。プラトーに陥ると、今までと同じトレーニング内容にもかかわらずまったくと言っていいほど成績が向上しない。原因は休養不足、栄養不足などが挙げられる。また、同じトレーニングメニューを何ヶ月もこなしていると、内容がハードでもプラトーに陥る。これはトレーニング自体が日常生活の一部だと体が誤認識し、オーバーロードの原則が適用されなくなるためである。
仲入り後は一之輔師、「風呂敷」。一之輔版「風呂敷」。風呂敷で窮地を救う鳶頭(俺の中では機転の効くクレバーな男の印象)が、なんだか阿呆に。助けを求めてきた長屋の女に訓戒をたれるのだが、「女は三階に家なし」等で。その際、ダジャレを言うというよりも、とんちんかんなことばかり言う。丸で物知らずな阿呆。おれはストレートな遊雀版のほうが好きだなぁ。笑いを足すからなぁ一之輔版は。アレンジが巧く言っていない印象を受けた。
夢吉さんは「将棋の殿様」。夢吉さんの「将棋の殿様」は初なので嬉しい!と小躍りする俺。「附子」での悪の権化・二枚舌で裏の顔を持つ定吉、「おらは旦那に忠誠を!」と言い続けていたものの「自分を変えるのだー」と蜜の魔力でころっと思想転換する権助のキャラクター作りもさることながら、下級武士、殿様、家老との演じ分けが巧い。もっとも、もっと殿様の人格が際立つと、もっと楽しくなるんじゃないかなと。もっと若くて馬鹿、年配だが馬鹿、とかね。殿様と一口に言ってもいろいろ考えられると思うわけでね。もっともっと夢吉もっと!(タケモットの節で)
終了後は、先輩たちと3人で打上げ。美味しい焼き鳥屋さんを紹介していただいた。落語も焼き鳥もご馳走様でしたナイトでした。
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