三方よし

CSR、コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ(Corporate Social Responsibility)とは、日本では一般的に「企業の社会的責任」と訳されます。

企業は事業活動を行うにあたり、取引先・消費者・株主・従業員・地域社会など各関係者(これらをステークホルダーと言います)とさまざまな形で関わりを持っています。その大きな関わりの中で生存しています。生計を立てています。そのような「"事業活動を行う上で関わりあう各関係者"に対して、どう関わり、何をしていくか」が問われるようになったことで、CSRという言葉・概念が生まれてきました。

企業は今までも社会貢献してきたのでは?と思われる人もいるでしょう。各関係先に対し、責任ある行動を行い、社会的課題に応え、信頼関係を築いていくという点では、決して新しい考えではありません。CSRは、そのような従来からあった経営理念やコンプライアンスを、今日の社会において、より大局的な視点から責任の重要性を説いていると言えるでしょう。

企業を、より深くより幅広く"社会の構成員"として位置付けることで、企業は各関係先との間で責任ある行動をしていくべきであるという考えです。企業は利益を上げるものです。利益を上げなければ存続できない集合体です。しかしどんなに利益を上げても社会から信頼されない企業は、社会の中で存続できません。過激に言えば、そんな企業は抹殺されていくでしょう。

かのドラッカーも、利益は企業の存続の条件であり、目的ではないと言っています。企業の目的は「社会貢献」であると。つまりは、企業の利益=社会の利益 ということなのだろうと認識しています。

ただし、CSRを顧客獲得のための戦略とする「CSRマーケティング」には疑問を感じざるを得ません。「社会的責任」を顧客獲得の手段にするのはどうかと思うからです。

一方、似たような考えとして「コーポレート・マーケティング」があります。

企業の利益が社会(お客様全体の利益)の利益になるという考えですが、最近良く耳にする「CSRマーケティング」と似ています。似ていますが、決して同じではありません。「社会的責任」と「企業がそもそも掲げる根本理念・事業の発端」をイコールとみなすことは難しいからです。

コーポレート・マーケティングとは、自社の商品やサービスをもってお客様に尽くす・貢献する・お客様のためになることをするという考え方です。お客様の価値向上・生活向上を第一義に考え、その結果としての企業価値(企業ブランド)向上を目的とします。

重要なのは、通常の商品やサービス、通常の営業活動が会社の利益を生み、ひいてはそれが社会の利益になるという点です。本業は本業、CSRはCSRという、表層的な考えでは決して成り立ちません。環境保全などの活動は、免罪符的な意味合いが強いと思われます。あくまでも、日常的な業務=企業の利益=社会の利益となってはじめて、『コーポレート・マーケティング』です。

近江商人の考え「三方よし」の21世紀バージョンこそが、コーポレート・マーケティングではないかと考えています。

「三方よし」とは近江商人の経営理念で、三方とは売り手・買い手・世間のこと。商取引においては当事者の売り手と買い手だけでなく、その取引が社会全体の幸福に結びつくものでなければならないという意味です。

大変素晴らしい考えです。江戸時代にも、このような考えをする人がいたのだということに深い感動を覚えます。同じ日本人として誇りに思います。お金儲けは決して悪いことではありません。その利益が「三方よし」に結びつくものである限り。