扇辰日和 vol.50

扇辰日和vol.50

柳家さん光:「ん廻し」
入船亭扇辰:「一眼国」
-仲入り-
谷川俊太郎:朗読(ハーディ・ガーディ/うみせんやません/臨死船)
入船亭扇辰:「藪入り」


さん喬一門会師弟四人会の夜の部に行かなかったのは、これのせいなのです。俺が「世界で一番好きな落語会告知チラシ!」と騒いでいることでもおなじみの「扇辰日和vol.50」があったからなのです。だって、扇辰師匠、大好きなんですものー。このチラシデザイン、最高に素敵なんですものー。(百栄先生の「ももちゃれ」と重なっており、悩んだのですが…)

それにさらになにより、ネタだしされている「一眼国」をぜひとも聴いて観たかったのでありますからして。師匠の「団子坂奇譚」を聴いて以来、俺は、この手の噺が師匠にはぴったりだと感じているわけで。天どん先生の独演会でゲストに来たときに掛けてくれた「雪とん」とかも、絶対に扇辰師匠にお似合いだ、この手の噺がお好きなんだろうなと感じるわけで。

開口一番は、「(枕が許される)二つ目になって、どのくらい枕をしゃべっていいかまだよくつかめていない」という「おじさん」改め柳家さん光さんで「ん廻し」。後から出てきた扇辰師匠が「俺の会で練習しやがって!(これからある国立劇場での落語会でも、さん光さんが「ん廻し」をネタだししていることから)と。本人としては磨きたいんでしょうなぁ。

待ってました!今夜のトリネタよりも待ってました!入船亭扇辰で「一眼国」。良かったけども欲を言えば、見世物小屋の枕を短めにして、もっと、この不思議な「一眼国」という噺をたっぷり濃厚になって見て欲しかった。地味な噺って言われているようだけど、俺としては怪奇噺、奇談に仕立てて欲しいんだけどなぁ。でも良かったですよ。

仲入り後は谷川俊太郎氏登壇。「扇辰師匠には叶わないが、僕もウケを狙いたい。笑いが欲しいタイプなんです」と、朗読3作。「ハーディ・ガーディ」「うみせんやません」「臨死船」。現代詩の朗読会なんて、行くつもりもないからとても新鮮でした。俺なんかが改めて思うけど、すごいセンスの持ち主何だなぁ。谷川俊太郎氏と言うと、俺などは「朝のリレー」くらいしか覚えていないのだけれども、扇辰師匠が言うように「現代詩で食べてる方は谷川先生くらいしかいないんじゃないんですか?」ってくらいな有名人を目の当たりにできて、うれしい体験です。

左龍さん、こういう感じだったんだよ。俺がトリに求めていたのはーー!と思わず、膝を打った、扇辰師匠の最後は「藪入り」。

薮入りとは、かつて商家などに住み込み奉公していた丁稚や女中など奉公人が実家へと帰ることのできた休日。1月16日と7月16日がその日に相当。今日は12月だけども、冬の季節の、今日の気分にぴったりな噺。

恋愛模様な噺よりも、両親の親心を描く噺の方が、俺にはじーんときちゃうんだよねぇ。ほっこりしたよい気分、よい心持ちで中野を後に。50回目も良かったわぁ。鈴本12月中席(入船亭扇辰主任興行)にも足を運ぶ予定です。



おまけ

「朝のリレー」 谷川俊太郎

カムチャッカの若者が きりんの夢を見ている時

メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている

ニューヨークの少女がほほえみながら 寝返りをうつとき 

ローマの少年は頭柱を染める 朝陽にウインクする

この地球では いつもどこかで 朝がはじまっている

ぼくらは朝をリレーするのだ 緯度から 緯度へと

そうしていわば交替で地球を守る 

眠る前のひととき 耳をすますと

どこか遠くで 目覚まし時計のベルが鳴っている

それはあなたの送った朝を 誰かがしっかりと受け止めた 証拠なのだ