第十二回 夢吉のバカ!

「夢吉のバカ!11→12」@上野広小路亭

ご挨拶:三笑亭夢吉
柳家蝠よし:「金明竹」
三笑亭夢吉:「狸の鯉」
三笑亭夢吉:「花見小僧~おせつ徳三郎の(上)」
-仲入り-
三笑亭夢吉:「水屋の富」


入り口で名前を告げると、「三浦さま(さん、だったかな。どっちでもいいけど)、メールありがとうございます」と受付の女性スタッフの方が。「夢吉のバカ」の主催者であり、公式ブログの管理者の方なのだろう。以前、夢吉さんに対する想いを込めた熱いメールを送ったことがあり、それを覚えていて下さったようだ。うれしい。掛け値なしにうれしい。

自分の仕事の領域(マーケティング)で語るならば、これぞブランド。素晴らしいブランディングが成し遂げられていて、それを顧客である俺が体感体験した瞬間だった。

「噺家さんのブランド」というものは、噺家さん個人の要素だけではなく、その人を支えたり、応援したりする周囲の人の要素でも構築されているのだ。肝に銘じよう。仕事にも、すべてのブランドに言えることなのだからな。

そんなほっこりした良い気持ちで会場に上がり、座っていると、先日の「巣鴨の小辰」で隣り合わせ、お話をさせていただいたおばあちゃまとまたしても遭遇。うれしいね、こういう出会いは。うれしいの倍づけだ。

さぁ、いよいよだ。去年の11月からずっと待っていたんだ。

夢吉さんの挨拶トーク。番組表にも書いていある、濡れせんべいの一件、顛末を。いちいちのレトリック、夢吉節が堪らなくおかしい。「地獄の伸び伸びサロンシップ」とかいろいろ。この人の知性の元はなんだろう。普段、スポーツ新聞を読んでいるだけで、こうなるとは思えないのだ。いつか話す機会があったら聴いてみたい。

前座さんは柳家蝠よしさん。青森県むつ市出身、痩躯の柳家蝠丸師匠のお弟子さん。「金明竹」。たどたどしいのですが、「あいつは気ちがいだから」と断定口調の骨董屋の叔父。愚かしい親戚の者(=与太郎)よりも、そっちのキャラの方が気になってしまいました。「金明竹」で叔父さんのほうが個性的だって設定は、まだ聴いたことがない。意図してやっているのであれば、すごい逸材発見。あと、言い立てが凄く聞き取りやすかった。こんなに丁寧に聞き取れた「金明竹」ははじめて。

「狸の鯉」。二度目くらいかな。最近では珍しい噺。「狸札」ばっかりだもんね最近。大変面白う御座い増した。良いもの聞かせていただいた。そんな印象。大笑いしたし。「狸札」は春風亭柳橋師匠、「狸賽」は笑福亭鶴光師匠、そして今回の「狸の鯉」は三笑亭笑三師匠から教わったのだそうです。渋い。習い処が、出所が渋い。さすがは夢吉さん。夢丸師匠とののろけ話も楽しゅうございました。ラブラブな師弟愛。聴いてて、こっちもウルっときますわ。

ときに。狸の話を続けてやる噺家さんもいますが、夢吉さんの場合、出自が異なり3種の狸がそれぞれ別の個性なので、つなげてやると「ビリー・ミリガン(解離性同一性障害=多重人格障害を患っていると主張した犯罪者)」のようになってしまうのだそうで。ははは。最高じゃん。んなこと言われたら、ますます聴きたくなるってもんでしょうよ。

ぜひ聴かせて下さいよ。「夢吉版多重人格的狸三部作~狸札・狸賽・狸の鯉」を。ぜひ「夢吉のバカ!」でやってくださいよー

二席目。今度は春風亭小柳枝師匠への愛を語る夢吉さん。素敵です。米丸、笑三、夢丸、小柳枝など。偉大なる先人師匠方の創られた良き江戸落語の継承と伝達を夢吉さんにはお願いしたいものです。

結婚式、しかも身内の結婚式での落語が一番嫌だ。って枕から「花見小僧~おせつ徳三郎の(上)」を。今夜生まれた俺の中での確信にも似た個人的名言、それが

『定吉は夢吉』

『定吉なら夢吉』

「附子(ぶす)」の定吉と言い、「花見小僧」のそれと言い、裏表のはっきりした小賢しい定吉は夢吉さんのが最高です。可笑しくって可笑しくって溜まらない。こまっしゃくれていて、ずるがしこくて、スネ夫的で、御坊茶魔的で、一休さん的で、憎たらしいけど、憎めない。まつ毛の長い、目のくっりっくりした、坊主頭の夢吉さんの風体と定吉とが相まって、もう!

2席続けて笑い過ぎて、疲れてしまった。そこにしぶ~~く「水屋の富」ですよ。なーる。「水屋の富」とのバランスを取るために笑い過ぎる程笑わせたのですね、夢吉さん。

これは何というか大変難しい部類の噺ではなかろうかと思います。滑稽でも人情でも怪談でもない。なんつーか、これなに系?って感じの噺。以前、白酒さんのを聴いたけど、何といって良いかわからず…。そんな噺。

うつ病チックというか、ノイローゼになっちゃうところは、現代病、現代的とも言えなくもないけど。ここまできた噺家さんなら(持っておきたい)と思っちゃう話なんでしょうね、きっと。それくらいジャンル不明。かけどころ難儀な噺だと思うのです。

自分の会でしか、そうそうやらない噺でしょうから、ネタ下ろしで聴くことができて大変うれしかったです。

次はいつだろう。どうか、日程が合いますように!