鈴本演芸場特別企画興行寄席DAYパート48 桂文雀独演会

鈴本演芸場特別企画興行寄席DAYパート48 桂文雀独演会

開口一番 柳家圭花:「道灌」
桂文雀:「七面堂」
翁家和助:太神楽曲芸
桂文雀:「へっつい幽霊」
-仲入り-
春風亭百栄:「露出さん」
桂文雀・翁家和助:茶番「山崎街道」
桂文雀:「浜野矩随」


同窓会を終えて、二次会行く仲間に別れを告げ(あぁ、行きたかったなぁ、そっちも…)、1人、鈴本演芸場へ。相当真っ赤に酔っていたので、茶店で酔いを冷まし、15分だけ仮眠。ちょっと早いな…と思いつつ17:00前に行くと、すでに長蛇の列。(おぉ、やべー) 開演時間を前倒しして、開場。

開口一番。黒門亭で聴いて以来の圭花さんは「道灌」。その時にも書いたけど、この人は声がいい。良く通る。滑舌もいい。しっかりしてるけど、似非ベテランな感じではなく、落ち着いている中にも若さが見える。ハキハキ、シャキシャキしてる。聴いていて心地よくなる前座の代表格。地味だから、あんまり言われてるの聞いたことないけど、圭花さんも意外にスーパー前座級だと思うのだ。

(ただ、誰が叩いていたのか知らないが、出囃子の太鼓はいただけなかった。覇気がなかった)

文雀師匠は、初めて聴く「七面堂」という噺。明治30年頃の速記本「百花園」の中にあった噺(3代目春風亭柳枝が演っていた)のを橘家円蔵師匠が掘り起こした噺だそうで。

文雀師匠の独演会に行くと毎回、「この噺は○○師匠に稽古を付けて頂いて…」という枕から始まる。この実直さが素晴らしい。とにかく真面目な(お酒を召し上がると…だが)人柄、誠実さが独演会には満ち満ちている。

で、この「七面堂」という噺。サゲが2通り。
1.そんな、七面倒(堂)な話…(やめときなよ…)ってパターン
2.そんなこと言って次の10年後に、今度は一万両出せと言ってもそれはできない!ってパターン
師匠は2通りともやってくれ、「どちらかお好きな方をお取りください」って、高座から降りた。俺は考えオチの後者が好きだなぁ。

太神楽曲芸は翁家和助さん。いつも「翁家和楽社中(おきなや・わらくしゃちゅう)」として寄席では何度も。でもピンでの舞台を観るのは今夜が初めて。

芸の確かさは知っていたけど、ここまでおもしろいとは!演出に独自の工夫も施されており、努力家の一面と、話芸の達者さに改めてうなった。文雀師匠が言うように、共演者として引っ張りだこなのは、うなづける。

 

文雀師匠の二席目は「へっつい幽霊」。圓太郎師匠で聴いて以来の夏の噺。文雀師匠のは構成が素晴らしかった。ちょっと進んでは、小ネタを挿入。ボクシングで言えば、ヒット&アウェイのようなスタイルで得点をがしがしに稼いで行った。そっりゃ、客にウケるよ。巧いんだもの、構成と話術が。正直、ここまでスラスラっと盤石な文雀師匠は初めて。盤石な文雀。文雀は盤石。安心して身を委ねることができた高座。

仲入り後の食いつきには百栄先生。ここまで文雀ワールド、文雀ファンに囲まれていると、何を掛けてくれるのだろうかと相当な期待の俺。

百栄先生だってベテランだ。(今夜の客はそんなに落語慣れしていないな)と感じたはずだ。良く言えばすれてない。無垢。落語に新作と古典があることすらよくわからない客たち。年配者が多い。先生は瞬時に、そう判断したはずだ。

先生が持つテッパンの枕、「モモエちゃん名前被りネタ」と「ボケには気を付けてくださいね」(どちらも俺勝手に命名)を繰りだして、シニアメインの満員客たちのハートを一気に掴んでしまった。

(手練れだ…)(与太郎なのは風貌だけ。さすがはクレバー百栄先生だ)と心の中で俺。

(俺の大好きな「天使と悪魔」を演ってほしいけど、今夜の客には会わないだろうな。なにをやってくれるのかな)と思っていたら、「露出さん」だった。(えー)っと思ったけど、流石はプロ。

果たして、「露出さん」はシニア客たちにどっかんどっかんウケていたのでありました。流石は百栄先生だ。でも、途中で切って高座を降りちゃった。寄席サイズ。最後までやって欲しかったなぁ。変な掛け声掛けた爺さんがいたから気分を害しちゃったのかなぁ。

次は桂文雀・翁家和助両者による茶番「山崎街道」。これも初めて。簡単に言えば時代劇コントのようなモノ。(寒くならないのだろうか)と人知れず心配してたのだが、あにはからんや。さすがはプロ。練習に練習を重ねて、いかにも即興コントな雰囲気を醸し出しつつ、これまた、客たちにどっかんどっかんウケていたのでありました。俺も笑ったし。今宵の茶番は良い茶番。

トリは「浜野矩随(はまの・のりゆき)」。爆笑&爆笑という構成に来て、最後にストンと人情噺。(泣かせてやるぜ!)な気負いを感じないのが文雀師匠らしさだろうなぁ。それでも泣いてたお客さんいたもんなぁ。上手いわ。俺も初期の作品の3本足の馬や河童狸が欲しくなりました。ところで、俺の知ってる「浜野矩随」では最後におっかさんは一命を取り留めると思っていたけど、師匠のはそのまま亡くなっちゃった?

 

師匠も言っていたけど、今夜のプログラムはてんこ盛り。プログラムだけではなく、その内容もとっても充実。満足度の高いものだったので、俺としては、超満足。

 

それにしても文雀師匠、ノリにノッテルナぁ。結婚したからってのも、あるのだろうか。これまですべてとは言わないまでも、ある程度観つづけてきた客として、偉そうに言うなれば、脂がのってて、本当に、ますます良い噺家さんらしい噺家さんになったなぁと感慨もひとしおの今宵でありました。