09月中席夜の部「柳家喜多八」主任興行「喜多八 十夜」@鈴本06日目

09月中席夜の部「柳家喜多八」主任興行「喜多八 十夜」@鈴本06日目

柳家小かじ:「道具屋」
柳家こみち:「堀之内」
和楽社中:太神楽
橘家圓十郎:「ちりとてちん」
春風亭一朝:「強情灸」
柳家小菊:粋曲
宝井琴調:「鼠小僧次郎吉 少年時代」
春風亭百栄:「鮑のし」
-仲入り-
大空遊平・かほり:漫才
柳亭燕路:「悋気の独楽」
伊藤夢葉:奇術
柳家喜多八:「居残り佐平次」


小かじさんは「道具屋」。観る度に上手くなっていくなぁ。三三師匠のお弟子さんだから?しっかりしてて落ち着きのある高座。顔は相変わらず硬くて怖いけど。師匠に似るのね。昔昔亭A太郎さんに顔が似てる。将来が楽しみ。

こみちさんは「堀之内」。この噺は簡単そうに見えて大変難しい部類の噺ではないかと思う。下手な人がやると、独り基地貝で、ただの寒い独り言になってしまう。客を置いてけぼりに滔々と語っている噺家にもたまに出会う。

その点、こみちさんは、ちゃんと可笑しい。丁寧な語り口でしっかり聴かせるから、ボケ倒しの連続にも客がちゃんと付いて行ける。恐らくプロの噺家にとって、この手の噺にくすぐりを挟み込んで笑いを取ることなどは簡単な事だろうが、ベースの物語がしっかりしてないと、そのくすぐりも生きてこないはず。

その点、こみちさん。おかみさん役は巧いし(「女流噺家なのだから当然」ではない、ってところが落語の面白い所なのだ。こんなに上手い女流はいない)、男形も大変に上手い。俺はこみちさんの「あっしはねぇ」の「あっし」という一人称が大好きです。とどのつまり、こみちさんは落語が上手いのだ。

和楽社中。客の入りも相まって、拍手するのが難しく…。

圓十郎さんは「ちりとてちん」。枕はいつもと同じだったけど、初めて面白いと心から笑った。威張り散らした後で痛い目に合う六さんが、この人の仁(にん)なんだ。今夜確信。ただ剽軽な人だけ演じられても笑えない。嫌な人・悪人をしっかり描いたからこそ、圓十郎さんの剽軽キャラが、より一層際立って、面白くなったのだと。もうちょっと落ち着いて話したり、演じてくれるともっといいけど。

一朝師匠の「強情灸」は何度聴いても気持ちがいい。江戸っ子口調も去ることながら、表情や仕方が堪らない。演技派一朝師匠の真骨頂。中でも定番の枕噺が秀逸。男二人が熱湯風呂に入る。そのビフォーアフターが可笑しい。俺が好きなのはビフォーの鼻歌。一朝師匠は喉がいいので、聴いてる方も気持ちがいい。

今夜の小菊姐さん。俺と目が合って、(今夜は昨日とは違うのやるわよ)って視線を感じたのは俺が妄想野郎だからだろうか。欽来節⇒人を助くる(「野ざらし」の終盤で、幇間が唄う唄。人を助くる身をもちながらぁ あの坊んさんは。何故に夜明けの鐘を突く アレ 鳥が鳴く してまた木魚の ぽくぽくぽく 音がする )⇒都都逸⇒(不明)⇒7775・あんこ入りの噺⇒館山⇒扇辰師匠の出囃子「唐傘」。「唐傘の骨はばらばら紙破れても、離れ離れまいぞえ、千鳥掛け。あまりあまり長いと皆様あきるぅ~ここらでここらでお後とちょいと代わりましょう~」。いよっ!また独演会行きたい!

琴調師匠は「鼠小僧次郎吉 少年時代」。大仰さはないものの、静と動のコントラストが素晴らしい。そこはかとなく漂う外連味がかっこいい。

涙を流して笑ったのは百栄先生の「鮑のし」。どう考えても甚兵衛さんが与太郎。「うんちわー」から始まり、「うけたまわりますれば」をトチるシーンがもう最高に可笑しい。こんなに可笑しい「鮑のし」は生まれて初めて。激しくお薦め!「うけたまはりまはりたまはりたますればまはりた」「お前はインド人か」的なやりとりを含めた一連のシーケンスが、もう抱腹絶倒。もしかすると百栄先生というキャラクターの持ち主にしかできない完成度の高い「鮑のし」なのかもしれないぞ。百栄先生の仁にこれほどあっている噺がありましょうか。いや、ない(反語)。サゲも「アワビのお爺さんでしょう」まで、しっかりと。尺的には本寸法。内容的には百栄寸法。今宵の収穫。

燕路師匠は「悋気の独楽」。金に汚いがかわいらしい定吉をやらせたら燕路師最高。

伊藤夢葉さんの話術奇術は師匠・伊藤一葉をもはや超えてると思う。初めて観たけど、どんな奇術師とも違って面白い。

そしてたっぷり喜多八佐平次。もうたまらんス。キャラ立ちまくり、鳥肌立ちまくりで俺ワールドの中では世界一の居残り。喜多八佐平次最高ですよ、師匠!


師匠の仁にこれほどあっている噺がありましょうか。いや、ない(反語)

 

余韻を味わうために、しばしその場に居残りたかったのに追い出し太鼓に背中を押された。十夜コンプリートしたいよ。してるファンがいると思うけど、羨ましい。

★マーケティングの視点★
いま巷では御朱印帳がちょっとしたブーム。ゲームでも何でも「コンプリートさせたい」「空欄を埋めたくなる」という人間心理を上手いこと刺激してビジネスに活かしているケースも多々あります。若手噺家さんの中には自分の会のスタンプカードを作って活用している人もいます。寄席だってそうです。毎日通いたい。月に何度も通うってファンがいるんですから、もっと、その辺に工夫を凝らすといいんじゃないかなぁ。